ドライアイ
私たちの涙は悲しい時だけではなく、目が乾燥したり異物が侵入したりした際にも分泌され、目を守ってくれています。ドライアイは、涙の分泌量の不足と涙の質の低下が原因です。涙の分泌量や質に異常があると、目の表面が乾燥して角膜や結膜が傷つきやすくなります。この状態がドライアイです。また、ドライアイは目の乾きだけではなく、場合によっては失明に至る病気に進行することがあるので注意が必要です。発症する原因によってタイプが分かれるため、その原因に合わせた治療を行うことが非常に大切です。
涙の構造
涙は、3つの層で構成されています。目の表面に涙を定着させるムチン層・角膜に栄養を与えて角膜を守る涙液層・涙の蒸発を防ぐ油層が適切なバランスを保ちながら目を覆っています。この3つの層のいずれかに異常があると、ドライアイの症状が現れます。正常に涙の層を保つには、まばたきをすることが非常に重要です。まばたきの回数が減少する長時間のパソコン作業などは、十分に気を付ける必要があります。
ドライアイの種類
蒸発亢進型ドライアイ
涙の質に異常が起こるタイプです。蒸発亢進型ドライアイは、涙の蒸発を防ぐ油層に異常が生じることで発症します。油層は、上下のまぶた縁にあるマイボーム腺から分泌されています。加齢によりマイボーム腺の油分の分泌機能が低下することや、汚れや老廃物などでマイボーム腺が詰まって油分が不足するとで、涙が蒸発し易くなる「マイボーム腺機能不全」になります。
マイボーム線機能不全
ドライアイの原因の約80%以上を占めるのが、マイボーム腺機能不全です。油層を分泌しているマイボーム腺は、上まぶたに30~40個、下まぶたに20~30個ありますが、加齢に伴い分泌機能が衰えてしまいます。さらに、アイメイクなどの汚れや老廃物が詰まることで、ドライアイを引き起こすことがあります。ドライアイが女性に多いのもこのためです。
BUT短縮型ドライアイ
涙を目の表面に定着させるムチン層の機能が低下して発症します。BUTは、Break Up Timeの略で、涙液層が形成されてから破壊されるまでの時間を言います。通常、瞬きをすると10秒以上は涙が目の表面を覆いますが、この場合通常よりも早く破壊されます。涙は十分に分泌されているのに、目の表面全体に行き渡りません。診断時には涙液層が破壊される時間だけではなく、どのように破壊されていくのかを測定します。
涙液減少型ドライアイ
涙の分泌量に異常が起こるタイプです。通常、目が刺激や乾燥を受けると、神経伝達によって涙が分泌されて異物を外に流し出しますが、この目がすぐに潤うシステムに異常が生じて涙が分泌されにくくなります。加齢・食生活・ストレス・薬の副作用などが原因は様々です。
疾患併発型ドライアイ
他の病気が原因で起こるタイプです。病気のほか、薬の副作用が原因となる場合もあります。下記の疾患を有する方で、ドライアイ症状など目に異常がある場合は、早めにご相談ください。
- シェーグレン症候群
- 兎眼
- スティーブンス・ジョンソン症候群
- 糖尿病
ドライアイの症状
ドライアイは目の乾燥に伴って様々な症状が現れます。軽度なものから重症なものまであり、ドライアイの症状が悪化すると角膜移植や失明に至る重篤な状態に発展することもあるので注意が必要です。主な症状は、以下の通りです。
- 乾きやすい
- 痛い
- 目やに
- かすんで見える
- 重たい感じがする
- 充血しやすい
- 痒い
- 目の不快感
- まぶしく感じる
- 不快感がある
- 目やにが出る
- ゴロゴロする
- 眩しさ
- 疲れやすい
- 涙目
ドライアイの検査
細隙灯顕微鏡検査
角膜にどれぐらい傷があるかを調べます。眼球に細い隙間から光をあてて、細部にわたって調べます。フルオレセイン(蛍光染色剤)を用いて、目の表面の傷を観察していきます。
BUT検査
涙の質の異常を調べます。まばたきをして涙が目の表面全体に行き渡ってから、まばたきを我慢して涙が乾くまでがどれぐらいの時間がかかるかを測ります。通常、乾くまでに約10秒かかるとされますが、5秒以下の場合はドライアイが疑われます。
ドライアイの治療
ドライアイの治療には、点眼薬を用いた薬物療法と同時に、これまでの生活環境を改善する指導を行います。薬物療法を行っても効果が見られない場合は、涙点プラグを挿入する治療法を検討していきます。
点眼薬
点眼薬による薬物療法では、涙の成分に似た人工涙液によって給水を行い、涙に粘性を与えて保湿するヒアルロン酸ナトリウム含有の角結膜上皮障害治療薬・ムチンの分泌を促進する薬などを用います。
ヒアルロン酸ナトリウム点眼液
(ティアバランス・ヒアレイン)
ヒアルロン酸ナトリウムが主成分で、目の表面の保湿や角膜上皮細胞の傷を治癒する効果が得られます。コンタクトレンズによって傷ついた際にも用いられます。
ジクアホソルナトリウム点眼液
(ジクアス)
粘性のあるムチンの分泌を促進させ、角膜上皮障害を回復させて、水分の分泌を促します。
レバミピド点眼液(ムコスタUD)
レバミピドが主成分で、ムチンの分泌を促します。目の表面に涙が溜まり易くなって、角膜上皮の傷を修復し易くします。使用の際には、一時的に目の前が白く混濁することがあります。また、コンタクトレンズにも成分が沈着することがあるため、医師にコンタクトを装用していることを伝えてください。
涙点プラグ挿入
点眼薬を用いた薬物療法を行っても、なかなか改善が見られない場合は、重度のドライアイの可能性があります。この場合、涙点をプラグで塞いで、目の表面に水分を溜める治療法が適応になることがあります。プラグは、シリコン製やコラーゲン製・樹脂でできたものなどがあります。
※当院では涙点プラグ挿入は行っていない為、重度のドライアイの治療が必要な際は連携病院をご紹介しております。
キープティア
コラーゲン製の涙点プラグです。コラーゲンは自然に存在する物質なので、数カ月の内に人体に溶け込み、消失します。液状を注入すると涙点内でゲル状になるため、挿入時の負担が軽く済みます。
マイボーム腺機能不全
の治療
涙の3つの成分の内、油層は涙液が目の表面に安定して留まるように機能しています。この油層の元となる脂質を分泌しているのがマイボーム腺です。マイボーム腺の機能が低下すると、脂質が固まり、マイボーム腺の出口を塞いでしまいます。ドライアイの治療において、マイボーム腺機能不全の場合は、この治療を行います。
温罨法(おんあんぽう)
マイボーム腺で詰まってしまった脂質を、まぶたを温めて溶かしていく治療法です。だいたい28~32℃で脂質が溶けるとされています。朝晩の1日2回、横になってまぶたを温めてリラックスしながら5分ほど待ちます。継続して行うことで効果が得られます。市販にも目元温罨法用品があります。
ドライアイの対策
昨今のパソコンやスマートフォンの浸透によって、長時間モニターを注視する生活が当たり前となり、ドライアイを訴える患者さんが増加傾向にあります。日本では、約2,000万人がドライアイとされています。また、エアコンなどの空調により、乾燥した部屋などが影響してドライアイを招きます。これらの生活習慣や環境を改善していくことで、ドライアイの症状を改善したり、発症を抑制したりすることができます。
加湿や点眼薬で潤いを
与える
近年のオフィスや住宅は気密性が高く、エアコンなどの長時間使用で空気が常に乾燥しています。また、直接エアコンの風を受けると目が乾燥し、ドライアイを招きます。これらの環境には、加湿器を活用して乾燥を防ぎます。それと同時に、点眼薬を用いて目に潤いを与えることも大切です。この場合、眼科で処方された点眼薬がベストですが、市販の点眼薬を利用する場合は、防腐剤の入っていないものを使用してください。
まばたきが重要
パソコンやスマートフォンを注視している間は、まばたきの回数が極端に減っています。人は、集中している時にまばたきの回数が減り、目が乾燥してしまいます。意識して、まばたきの回数を増やすことも大切です。それと同時に、目をしっかりと休息させることで負担を軽減させます。また、モニターやディスプレイが視線よりも下に向くように、位置を下げることが大切です。視線よりも上にある場合、目を大きく開けて見ようとするため、より涙が蒸発易くなります。
コンタクトレンズは正しく装用
コンタクトレンズを装用していると、目が乾き易くなります。ドライアイの症状が気になる場合は、眼科専門医と相談しながらご自身に合ったコンタクトレンズをご選択ください。また、正しい使用方法を守ること、お手入れも説明通りに行うことが大切です。